枝の記憶に残り続ける名作「のどがかわいた」【国語の教科書】

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枝と申します。

国語の教科書に載っていた名作と言えば「スイミー」や「少年の日の思い出」などが知名度としてはStierですが、隠れた名作みたいな物も当然存在していると思います。

今回紹介する「のどがかわいた」という作品もそんな作品のひとつ。

ご存じない方も多いと思いますのであらすじから見て行きましょう。

「のどがかわいた」のあらすじ

僕(イタマル)は、水を飲む時間を楽しみにしている。しかし、寄宿学校の同じ部屋になったエルダットがいつもじゃまをする。そのため、みんなが水を飲み終えてからゆっくり蛇口に近づくようにしていた。僕は、蛇口から水を飲むとき、映画の場面のように砂漠やいかだの上でのどが渇いた自分を想像し、それから飲むのが好きだった。すると、同じ部屋のミッキーも、僕とそっくり同じように水を飲むことに気が付いた。実はミッキーものどの渇きを知っていると分かり、それからは二人で水を飲みに行くようになった。ある日、僕たちはガリラヤ湖に行き、あごの上あたりの深さのところまで浸かった。そのまま丸一時間も、僕は沈没船のドアに乗っているつもりで立っていたけど、疲れて湖の水を飲んだ。見ると、ミッキーも水を飲んでいた。

国語教科書の素材辞典

あらすじはこんな感じ。

子供に読ませるとは思えないくらい話に山場がありませんうるさいガキと静かなガキが湖で水飲んでおしまいです。

これを読んだ小学生は「何が面白いねんこの話」といった感想を抱かずにはいられないと思います(筆者はませたガキだったので湖の衛生面を気にしていました)。

……思うのですが、この作品は当時から10年以上経った今でもなお「いい話」として自分の脳に刻まれ続けているんですよね。

独りで静かで豊かで……

先ほども言いましたがこの話には山場らしい山場がありません

主人公のイタマル(やんちゃ)がルームメイトのミッキー(おとなしい)の水の飲みっぷりに感動して仲良くなる、というのがこの話の核ともいえる部分です。

豪炎寺が燃えながらシュートを打つことも無ければ、ストームペガシスとロックレオーネが火花を散らすこともなく、小学高学年というカッコよさを求める年ごろにはいささか薄味と言える物語でしょう。

しかしながら、いえ、だからこそ、この物語が持つ「静かな豊かさ」が際立っているとも言えます。

「のどのかわき」を知る者同士

ミッキーの水の飲みっぷりに感動するシーンでは「こいつ、のどのかわきを知っているんだ。」というイタマルの心の声が挟まります。

イタマルはうるさいガキですが、「のどのかわき」という自分だけが持つ特別な価値観・世界を持っており、ミッキーが水を飲む姿に対して、コイツはその感覚を通じ持つ人間であると見出すのです。

「喉が渇く」なんてのは人間の生存上極めて当たり前の感覚ですが、故にそれ自体に対して自分なりの世界・考えを持つという事は非常に珍しいことです。当たり前の事を改めて深く考える、感じられる人間というのは意外と少ないですからね。

そんなピンポイントな感覚を共有できるという直感的な確信と喜び

イタマルがミッキーと仲良くなるのには根本的な思考レベルの一致があったとしか言えません。

タイプが違うとかは関係ない

再度言いますが、イタマルはうるさいガキミッキーは静かなガキです。

タイプの違う二人が仲良くするのは「ふたりはプリキュア」から始まったとされていますが、この作品もそれに倣ってタイプの違う二人が仲良くします。

かと言って仲良く何をするかと思えば、湖に浮いて水を飲むという、ただそれだけなんですよね。当然湖に浮かんで水を飲んでるだけなので会話らしい会話も無いんです。

ただ、小学生には理解しがたいでしょうが、この「会話もコミュニケーションも特に無いけど、お互いがお互いを理解している友情」というのは、非常に良いものだと私は思います。思考を挟まないレベルでお互いにお互いを分かっていれば必要以上の会話は要らず、しかしお互いを分かっているので、二人が何で満たされているのかが分かるって訳ですね。

これこそが豊かな人間関係であると、私は未だにそう思っています。

おわりに

という訳で今回は国語の教科書に載っていた「のどがかわいた」という作品について、紹介ついでに色々と考えてみました

当時は全く知りませんでしたが、この作品の筆者であるウーリー=オルレブはユダヤ系の家系に生まれたため、非常に過酷な人生を送ったそう。そう考えると「かわき」という単語一つや、湖で静かに水を飲むという行動にも、筆者の理想といった物が反映されているのかな~とかも思ったりしますね。

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