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枝と申します。
こないだありがたくも無料公開されていたベルセルクを読んでいたのですが、中でも14巻(みんな大好き「蝕」の終わった辺り)から始まる「ロストチルドレンの章」とかいうパートが今まで読んできた漫画の中でもトップクラスに面白かったので、その感想を書いていこうと思います。
目次
ロストチルドレンの章はお試し版ベルセルクに最適
長期連載の漫画について話すとき、この辺りの話は好きだけどこの辺りは微妙かな~みたいな話になることは往々にしてあると思います。筆者は未だにワンピースのトロをアラバスタ編だと思っていますし(ビビに「人は死ぬぞ」って説教するルフィがかっこいいから)、ガッシュのクリアノート編はやや蛇足だと思っています(なんか雑に強い敵が急に出てくるから)。
そんな中でロストチルドレンの章をベルセルク内でも傑作の部分として挙げる理由、それは女子供にも容赦ないディープでダークな世界観や、異形との熾烈な闘いを繰り広げるガッツの勇姿がこれでもかと詰め込まれている部分がロストチルドレンの章だからです。ちょうど黄金時代編が終わったところなので、前後の流れをあまり気にせずに読み切り的な感覚で読んでも面白いところが◎ですね。
納屋を丸焼きにして倒した妖精の死体が人間の子供の死体に戻るというエグい描写や、「戦争ごっこ」「大人攻撃」といった純粋無垢に最悪な描写(自分の目で確かめてくれ!)も満載でありながら、ドラゴンころしと義手に仕込まれたからくり、そして「殺意」で戦うガッツの強さ・怖さ・カッコよさがジルという常識側の視点で映し出されるのがこの章を傑作たらしめている理由かなと思います。
起承転結がまとまりすぎている
先ほども述べた通り、ロストチルドレンの章はその部分だけ切り取って見ても凄まじい完成度を誇っている章です。ざっくり言うと単行本の14巻、107話~132話辺りが該当する訳ですが、とにかく起承転結が美しすぎるんですよ。
旅を続けるガッツがたまたまジルという女の子と出会うところから話が始まり、村を襲う怪異を調べていくとジルの元お友達のロシーヌが元凶であることが分かり、ジルは何も良い事の無い村での生活と使徒として自由に暮らすロシーヌの元での生活との間で揺れ動き、それはそれとしてガッツは使徒絶対殺すマンなのでロシーヌを倒すためボロボロになりながらも戦い……そんな激動を経たうえで、ジルは村での生活、ガッツは終わり無き抗いの旅という元通りの生活に戻っていく。
使徒を倒しはしたものの、根本的に誰かが幸せになった訳では無いビターながらに爽やかな結末が「蝕」でゲッソリした心に染み渡るんですよね。。。
ガッツつえ~、こえ~、かっけ~、かわいそう~
世界観やらストーリーやら設定やら、ベルセルクの魅力は言い出せばキリが無いと思いますが、見ていて一番強く感じるのは見出しの通りの感情です。
ロストチルドレンの章においてもこの感情を抱くことは変わらず、嵐のように敵をなぎ倒す "黒い剣士" ガッツはつえーですし、使徒であるロシーヌにすら悲鳴を上げさせるガッツの殺意はこえーですし、義手に仕込んだ大砲の反動を活かしたドラゴンころしの回転切りはめちゃくちゃかっけーですし、そんな人間の埒外に足を踏み込んでおきながらも相手が「元子供」というだけで剣に迷いが出る、人間を捨てきれないガッツはかわいそうなんです。
ガッツの人間離れした部分、そしてどうしても捨てられない人間の部分を一挙に味わえるのも最高ですね。
おわりに
という訳で今回は、ベルセルクの中でも屈指に面白い「ロストチルドレンの章」について感想などを書きました。この作品の美味しいところが短くギュッと詰まっているので、もしベルセルクを誰かに読ませたい時は、まず14巻を送るのが良いかもしれませんね。
【おまけ】279話まで読んだ感想
ここからは無料期間の間に読めた279話までの感想です。
グリフィスはマジで何?
黄金時代編のグリフィスはいいやつだし強いし最高だけど、ガッツが団を抜けたら姫様を襲ってまんまと捕まって(プレミ?)、ボロボロになった鷹の団を贄にしたと思ったら顕現してすぐミッドランド解放のために戦って、でもガッツ一行のことは襲って……と読めば読むほどグリフィスの事が分からなくなります。グリフィスが路地裏から見え上げていたあのお城ってのは結局何なんだ……
髑髏の騎士かっけ〜けど誰〜?
「髑髏の騎士」とかいう意味深なことしか言えない以外欠点の無いクソカッコいいキャラ、一体誰なんでしょうか。元狂戦士の甲冑使いってことは明らかになりましたが、体の中でベヘリットを練り上げた呼び水の剣とかいうバカかっこいい技を使う事、あと強いことしか分かりません。生きてる存在なのか死んでる存在なのかもよく分かりません。まぁカッコいいからいいか……(最新のCVは大塚明夫らしいです、かっけ~)
ルカ姉と侍女のアンナ、ファルネーちゃんのお母さん、したたか
ベルセルクは女子供にも容赦なく理不尽が襲い掛かりますが、ルカ姉やファルネーちゃんの侍女であるアンナ、ファルネーちゃんのお母さまは凄く強かにこの世界で生きているようです。
特にルカ姉のいい女っぷりは凄まじいです。人格者とかいうレベルでは無い気高さと責任感を持ちつつも、生き残るために娼婦という職業を選び、なおかつそれなりの権力を持つジェロームとコネを作るリアリストでもあり、髑髏の騎士と相対しても怖気づかない度胸があり、と非の打ちどころが全くありません。
そんなルカ姉が完璧超人が故に、ニーナの抱える「人間ゆえの弱さ」はより一層浮き彫りになっていたように感じます。ベルセルクの世界で生き残るにはルカ姉くらい完璧か、ニーナくらい臆病じゃなきゃダメなのでしょうね。
魔法が賛否両論な理由、何となくわかった
これまでベルセルクを読んだことはなかったのですが、「魔法が出てからは微妙」的な話だけはちらほらと聞いていました。その理由が今回何となくわかったような気がします。
まず、魔法が出てくるまでの戦いは、ドラゴンころしと義手のボウガン・大砲という極めてメレーでプロジェクタイルな戦闘スタイルでした。己の身体と剣こそが最大の武器というガッツの人生を表したかのような戦いを読者は目に焼き付けてきた訳です。
なのですが、魔法の話が出てくると同時に水属性火属性風属性……ってFFみたいになるのが結構唐突感がありました。併せて念話とか、気(オド)とかの便利設定が登場し、しかもそれを解説するのが幼女というのは、これまで塩でそば食ってるところに泡系白湯ラーメン出されるくらいの方向転換に感じられなくもないです。
そういう世界観的な部分もありますが、魔法が出てきてからはガッツを中心としたフルパーティ(女子供含む)での旅が始まり、イシドロとシールケの喧嘩があったり(like a シュタルクとフェルンの喧嘩)、女の子同士でのお風呂シーンがあったり、旅の中でちょっとガッツに恋心を抱いたりなんかもしちゃったり……といった感じで、王道RPG的な雰囲気になるんですよね。これもそれこそロストチルドレンの章のようなガッツの剣客浪漫譚を読んでから到達すると、「なんか凄いJRPGナイズドされてきたな……」と感じずにはいられませんでした。
で、こうなってくると、もう流石に「蝕」とかやってられんだろ(キャラ人気的に)という話にもなってきますよね。