枝と申します。
早速ですが皆様は「剣持刀也(@rei_Toya_rei)」というライバーをご存じでしょうか。
剣持刀也は2018年にデビューしたバーチャルライバーであり、Vtuber界隈の黎明期には数少ない「男性のライバー」として様々な場所で活躍しました。また、男性Vtuberという存在のレア度が下がった今でもその勢いに衰えはなく、チャンネル登録者数も36.5万人を記録しています(2021年5月29日現在)。
しかし、そんな彼は特別ゲームが上手いわけでも何かの日本記録を持っている訳でもありません。プロのゲーマーとコラボしまくっている訳でもありませんし、配信も「12時くらい」という寝たい人は寝たい時間に週一回くらい行うのみです。あとゲームはむしろ下手です。スパチャを貰えば「スパチャすんな!!!クソクソクソ!!」とキレ散らかしますし、コメント欄の人を気まぐれに5分間消し去りますし、しょうもないクソツイをしますし、ボイスは出しませんし、ホームスイートホームの続きはやりませんし、と残念な要素も枚挙に暇がありません。
なのにどうして深夜1時にノリで始めたスリザリオで同時接続者3万5千人を集めることができるのでしょうか?
という訳で今回は剣持刀也の配信が何故「面白い」のかという根本的な話をしていこうと思います。
初めてファンらしい活動をする気がしますね。ワクワク。
目次
配信頻度の低さ=武器
まずは剣持刀也の配信頻度の低さについて。
剣持刀也の配信頻度は他のライバーと比べるとかなり低めであることは皆様もよくご存じの事かと思います。事実2020年度の配信時間ランキングでは普通に下から数えたほうが早いという驚異の結果を残していますからね。
しかし、これは剣持の配信にレア度が生まれているという事でもあります。
配信自体がレアだとどういう事が起こるのかと言いますと、剣持の配信を見たこと無いような人たちが「あの配信頻度が低い事で有名な剣持刀也が配信をしているらしいのでリアタイしてみよう!」となるんですよ。剣持リスナーの皆さんですら「今日を逃したら次いつリアタイできるか分からん!」と焦った事あると思いますし。
ただのソロ配信に「レア」という付加価値が生まれている訳ですね。
リスナーの無意識な布教活動
そんな「剣持が配信してるらしいという情報」が流れるのは皆様もご存じTwitterでございます。「剣持が配信してるらしい情報」というのは具体的に言うと上に貼ったみたいなやつですね。
ここで「え、配信を見てる皆は配信にコメントするのでは?」と思った方。
その考え方は非常に正しいです。事実剣持の配信に流れるコメント量は非常に多いですからね。件のスリザリオ配信では「4161コメント / m」という凄まじい速度が観測されています。
それなのに何故Twitterに「剣持が配信してるらしい情報」が溢れるのか。
それは剣持リスナーが「面白い」とか「凄い」とかそういった剣持の配信を見たくなるような誉め言葉をコメントに乗せたがらないことが関係しています。
全部Twitterに放流されるんですよ。
それゆえ下流に住む他のライバーのリスナーにそうした言葉が届いてしまうと。
なんかよく分からんけど剣持は凄く良いらしいという漠然とした情報のみが届いてくると。
そういうことなんです。
この配信はそんなリスナーの性質にハッシュタグが加わって見事深夜にトレンド入りを果たしたという例でございます。深夜に行われた40分程度の配信だったのに「#剣持裁判」と「まぐろみかん」の両方でトレンド入りしただなんて凄い事ですよね。
「まぐろみかん」が何なのかはよく分かりません。
視聴者を「囲う」能力の高さ
さて、そうして事情を知らないまま流れて行った新規の顧客たちが剣持の配信で見ることになるのは、個性を奪われたリスナーたちと剣持刀也による凄まじい殴り合いな訳です。プロレスが上手いという点に関してはかなり有名ですよね。
なので今回は個性を奪われたリスナーという所にしっかりとフォーカスを当てていきましょう。
- どれだけステキなFAを描く人でも
- どれだけカッコいい音楽を作る人でも
- どれだけ深いSSを書く人でも
- どれだけ長く剣持を推している人でも
- どれだけ面白いMADを作る人でも
剣持刀也の配信を見る人間は皆一様に「いち視聴者」でしかなく、剣持刀也にとっては「お前ら」でしかないんですよ。この徹底した平等こそが、剣持刀也のリスナーを増やす要素の一つになっていると私は考えます。剣持の配信には古参も初見も無いんです。皆ゼロから産まれただけの存在でしかない。
だからこそ初見の人たちでも疎外感を感じることなく配信に紛れ込めるんです。
そんな視聴者たちに剣ちゃんが用意する物。それこそが「非常に分かりやすいツッコミ・プロレスの機会」なんですよね。
剣持刀也という男をあまり知らない人、あるいは今日初めてお会いしましたよという人でも、配信中にこんなムーブをされたら何かを投げつけたくてたまらなくなることでしょう。そこで一度でもコメントを投げてしまおうものなら、その瞬間にあなたは剣持の配信に「参加」したことになり、剣持の望むプロレス芸を作り上げる一員になってしまうという訳。
初めて配信を見る人間にすらファイティングポーズを取らせてしまう男、それこそが剣持刀也なのです。
なおこの項に関しましては灰猫さんの記事である「心理的群衆としての剣持リスナー——「群衆心理」による諸考察【にじさんじ】」に大きく影響を受けております。
より詳細にリスナー心理の揺れ動きを把握したい方はぜひ灰猫さんの記事をご覧ください。
配慮の鬼
そうして初見の人にすら棍棒を渡しておきながらも、その日遊ぶゲームのルールや話そうとしている話題のコンテクストを非常に丁寧に説明してくれるのが剣持の性格が表れている所と言えましょう。
言い換えれば初めて見る人が分からなさそうなことを限りなく排除しているという事ですね。
基本的に剣持が取り上げるゲームというのは
- 剣持が詳しいゲーム(麻雀・Civ)
- 皆が知っているゲーム(マリカ・スリザリオ)
- 誰もよく分からないゲーム(野生動物運動会・ARBS)
の3つに大別されるので、知識の差がリスナーの中で生まれにくいようになっているんです。先ほど言った「徹底した平等」というのがここにも当てはまっている。
一方で他の人がやっているAPEXの配信なんかを見ていると、お世辞にも「平和なコメント欄」とは言えないものが多いですよね。有識者が好き勝手にコメントするせいでコメントがコメントに対してキレているシーンも非常によく見ますし。
おおよそ全ての配信で、おおよそ全ての視聴者が、「よーいドン」の知識量で配信を見ることができる。これこそ剣持刀也の恐るべき配慮が成せる業なのでは無いでしょうか。
配信構成がしっかりしている
次に取り上げるのは配信の構成について。
皆様もご存じとは思いますが、剣持刀也のソロ配信はほぼ毎回既存するフォーマットに則って展開されます。
- 5~10分程度の遅刻を含む待機画面
- ライトソングを流しての枕話
- メインコンテンツ(ゲームだったり企画だったり)
- 振り返り(感想や〆の言葉)
- Cパート
という感じですね。
こうして毎回の構成がハッキリわかっていると、視聴者としてはどこでしっかり画面を見たり話を聞いたりしなければいけないかが非常に分かりやすいんですよ。もちろんこれは意識して行うものではありません。どちらかと言えば無意識で行われる緊張と緩和ですね。
しかし、今までのゲーム配信などを思い返せば、貴方もきっとメインコンテンツが終わってライトソングが流れた瞬間に「あ~今日のゲーム面白かったな~」という感想を抱いているはずです。
そうした多くの視聴者と同じタイミングで、剣持はきちんと自分の言葉でゲームの感想を述べる。「僕はここでこう思いましたし、最後はこういう事なんじゃないでしょうかね。」ってな感じで。
そんな剣持の考察や意見を聞いて、視聴者はより一層深くメインコンテンツや剣持刀也の思想について思いを馳せると。ただ剣持のプレイを見たというだけで終わらずに、剣持と一緒にコンテンツの内容を噛み砕く時間が毎回あると。
そう。
つまり剣持刀也はピロートークがめちゃくちゃ上手いんです。
「今日は楽しかったね」と配信を閉じる前にもう一度言うからこそ、視聴者の記憶に「剣持の配信面白かったな」という体験を強く印象付けることとなり、結果として高い満足感に繋がる。
飲食店で去り際に「美味しかったですか?」って聞かれるアレと同じことが毎回の配信に組み込まれているんですよ。
なんと緻密か。なんと綿密か。
ちなみにこちらの記事に書きましたCalliopeなんかもその「構成」が非常にかっちりしています。
めちゃくちゃかわいいので見てください。
短時間で終わる
そんな「構成」という面に加えて、配信自体の時間が短いという事も「剣持刀也の配信は面白い」という強いイメージづくりに繋がっていますね。
画像は剣持が今まで行ってきた配信をグラフにまとめて無造作に取り上げたものですが、28配信の内20配信は2時間以内という比較的短時間で終わっています。
配信が短い利点にはアーカイブが追いやすいというのがありますが、それ以外にも1時間で体力を出し切るので配信の密度が高まるということや、撮れ高が分かりやすいという事など、様々な良い点があるように思われます。視聴者としても「明日仕事なのに配信続くから寝れない;;」という事が少ないですし。
しっかり1時間無言を作らずに喋り切る剣持のフィジカルと先ほど話したかっちりした構成が合わさると「1時間全てに密度があり、かつ緩急もある配信」が生まれるんですね。
そんなもんまぁ面白いに決まっていますわ。
剣持「本体」が安定して面白い。
最後に、剣持刀也の配信は取り上げるコンテンツでは無く剣持刀也本体が面白いからこそ人気を誇っていると言ってよいでしょう。コンテンツという武器に頼っていないとも言い換えられますね。
試しに剣持刀也という男からメインコンテンツである「お絵描きの森」を奪い去ったとしましょう。
それでも彼は雑談で、スリザリオで、Civで、クソゲーで、ホラゲーで、麻雀で、コラボで、面白い配信を生産し続けることと思います。
コンテンツの力に頼らずとも「剣持が」お絵描きの森をやっているから人が集まって来る。これは剣持刀也本体のポテンシャルが高いからに他なりません。
「本体のポテンシャルの高さが人を呼ぶ」というのは葛葉のバイオ8なんかもそうですね。
発売直後のゲーム+人気シリーズのナンバリングタイトルというバフがあったと考えても、ソロ実況で最大同時接続5万はとんでも無い数字です。
実際問題、葛葉のソロ実況は冗談抜きにマジで面白いですからね。Thief Simulatorとかめちゃくちゃ好きですもん。
おわりに
という訳で今回は剣持刀也の配信が何故「面白い」のかという疑問に私が全力で回答を出してみました。ちなみにここまで書いておいてアレですが、多分剣持刀也本人はここまで考えて無いと思います。
しかし、様々な要素を紐解けばあらゆる歯車が巧妙に噛み合っているというのも事実。
今後も面白い配信を作ってくれることに期待しつつ、あまり剣持を甘やかし過ぎないようにしましょうね。
それでは、おつあご~
おまけ
私がこの記事を書いたのは3月26日。
この記事の中では「は?」や「もた…もた…」という剣持リスナーの基本的なデッキについて丁寧に言及しました。
一方、剣持刀也がリスナーハンターと題して我々から言葉を奪う配信を行ったのは3月31日です。
これってぇ!!!
もしかしてぇ!!!
ちなみに「リスナーハンター」以降「は?」というコメントの存在は抹消されていますよ。