好きだった人の話。

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 「吾日に吾が身を三省す。」なんていうのは曾子の言葉であるが、1日に限らず人生を振り返るというのは非常に良い事だと思う。

 ゆえに、私は人生でも恥ずかしい点とされがちな過去の恋愛について振り返り、書き残して置こうと思うのだ。これは実際自分からすると恥ずかしい話ではあるが、人格の形成や行動の選択に大きな影響を与えていることも間違いない。

 こういった浮いた話が好きな人は好きに楽しんでくれると良いだろう。

高校生1年生

 事の起こりは非常に単純だった気がする。部活やサークルなんかでよくありがちな「お前、先輩の中やったら誰が可愛いと思う?」という問いだ。中学校時代は運動部で、ひたすら男友達と遊び惚けていた自分にとってのその問いである。答えによどんでしまうのは当たり前だった。真面目に答えれば茶化され、答えなければ面白くなく、というどっちを選んでも軽傷は免れない問いに対し、私は当時あまり喋ったことも無い一人の先輩を答えに出した。

 これが私の人生における、いわゆる「初恋」の始まりである。

 質問が起こった当時における「あまり喋ったことが無い」というのはまさにその通りで、言葉を交わすことはおろかラインでのやり取りすらなかった。互いに存在を認知してはいたが、その「接点」と言えるようなものはほぼ無かったのだ。

しかし、いざ口に出してしまうと「想い」というのは固まるものらしく、いつの間にやら私は、まんまとその先輩に思いを寄せていたという訳である。

 そこに最初の動きをもたらしたのは私だった。こういう時の行動力だけには自信があるのだ。最初は文字通り他愛も無い話からだったと思うが、なんやかんやの紆余曲折を経て、私は「本を借りる事」に成功した。

 そこからはなんとなく想像がつくだろう。本を借り、その意見を交換し、日常会話をし、ラインが切れそうになったら全力でボレーしてなんとか話を繋げ、という「いかにも」な感じの日々が続いた。今思うと高校生時分でしかできない事だったようにも思う。

 最初の話が夏だとすれば、私が告白するという思いを固めるのにかかった期間はせいぜい4,5ヶ月。高校1年生は冬。人生初の告白という物を経験した。

 ――まぁ結果はお察しの通り。「後輩としては大事に思っているけど」という名詞の部分を交換すればいつでも使えるような断り文句で案外あっさりと振られてしまった。

 話が込み入ってくるのはここからなのだが。

高校2~3年生

 先ほどの話というのは、というか私がその先輩に思いを寄せているというのは、部活内の(ほぼ)誰にも伝わっていなかった(と信じている)ので、見かけ上はいつも通り私とその先輩が話しているだけだった。なお実際は、お互いこれ以上ないくらいの気まずさを抱えている。

 その気まずい関係を変えてくれたのは、春になって入ってきた後輩だ。詳しい事は覚えていないし書く必要も無いので省くが、とにかくその後輩のお陰で、私と先輩は逆にとてつもなく仲が良くなってしまった。

 徹夜でラインするのは当たり前だったし、2人でご飯を食べに行ったり、何かを買う訳でも無いのにIKEAに行ったりした。土日の休みを挟んで学校がある時は私がお菓子を作って先輩に学校で食べてもらうという謎のイベントがあったし、あとはシンプルに映画を観に行ったりした。

 その観に行った映画がギレルモ・デル・トロ監督の「シェイプ・オブ・ウォーター」だったのも、ちょっと周りとは変わった関係っぽくて非常に嬉しかった記憶がある。というかその映画の半券はまだ家に置いてある気がする。……まぁとにかく、振った振られたの関係とは思えないくらい仲良くなったという事が言いたいのだ。

 そんな関係の中でも私は、私だけはその先輩の事がずっと好きだった。事あるごとに想いを告げていたし、時間も、お金も、労力も、持てるリソースはたくさん注いだ。

 そんな私に対して先輩は「異性として好きになれるとかはほんまに無いねんよな、ごめんな。」と繰り返し私に言い続けた。いわゆるアセクシャルだとも言っていた気がする。

 つまり当時の私は、人の話を聞かずに好意を押し付け続ける大馬鹿野郎だった。その事は当時でも自覚していたし、相手の事を考えると申し訳ない気持ちはたくさんあった。でも、それでも色々な話に付き合ってくれる先輩に対して、私は恋愛以外の感情を持つことができずにいた。

 そんな日々の中でも特に印象深いのは、先輩の家族と共に買い物へ行ったことである。話の展開が急すぎて分からないかもしれないが、当時の私が一番分かっていなかったので安心してほしい。つまりは一切そういう報告でも無く、ご両親に挨拶をすることになったという事だ。

 私の話は先輩伝いにご両親へと伝わっていたらしく、先輩が言うあだ名でご両親から名を呼ばれた。休日の家族の買い物に私という存在が急に放り込まれたにも関わらず、彼らは親切に私の事をもてなしてくれた。一人娘の家庭だったからこそ年頃の男の子が珍しかったのかもしれない。

 行きかえりの車の中では先輩の家の話をたくさん聞いた。先輩は親へのリスペクトが、特に父親へのリスペクトが尋常では無かったので、普段からある程度父親の話を聞いてはいた。それでもやはり実際にあって直接話をさせて頂くと、その人格はよりダイレクトに伝わってきた。

 こんな大馬鹿野郎にも温かく接してくださった人々だった。

大学1回生

 そんな日々というのも、当然ながら永遠に続くわけではない。変化の具体的なきっかけは先輩と私の大学進学だ。お互い距離が離れて忙しくなると、やはり連絡は途切れがちになる。しかも私は地元を離れて下宿することを選んだので、より一層それが顕著に表れた。

 新しい環境と、新しい友達と、新しい恋と。どんどん細くなっていく先輩との縁の糸とは関係なく、私の日々は目まぐるしく変化した。なお、その恋に関しては一個も実ってはいない。……笑うなーー!!

まぁとにかく!そんな中で私は必死に先輩の事を忘れようとしていたように思う。

 そんな日々も落ち着きを見せた1回生の夏休み。地元に帰った私は「先輩に彼氏ができた」という事を同級生から伝えられた。

 流石にその時の感情は複雑であった。忘れようとしても忘れられなかったんだなと気づく部分もある。あの時の言葉はやはりあしらう為だったんだなという悲しい部分もある。ようやく彼氏に見合う人が見つかったんだなと嬉しい部分もある。彼氏がどんな人間なのか会ってみたいという好奇心の部分もある。

 どの感情が本物で、どの感情が自分を納得させるための偽物なのかも分からなかった。

 しかしそれを「聞きましたよ!彼氏できたらしいですね!」なんてラインで突撃するのはそれこそナンセンスでしかない。そうかそうか、と独り言ちて私はまた慌ただしい日常の中へと潜っていったのだった。

大学2回生

 それから次に話が動くのは大学2回生の冬。そしてこれを書いている今からするとたった数日前の話である。私は先輩のSNSアカウントをライン以外知らなかったのだが、なんと先輩のインスタアカウントからフォローが来たのだ。……まぁこれも情けない話、ずっとオススメユーザーのサジェストにアカウントは見えていたのだが。

 とりあえずフォローされたからにはフォロバをしなければならない。どうして今のタイミングなのかも彼氏とどんな感じなのかも一切分からないままではあったが、とりあえず「お久しぶりですね」という具合のメッセージを送った。

 返信は当時と同じで非常に早かった。しかも絵文字がいっぱいだから見ただけですぐに先輩だとわかる。この1年、新しいことが何もなかったせいで感情も自粛していたように思っていたが「懐かしい」という感情はすぐに引っ張り出せるもののようだ。

 しかも余裕の無かった1回生の時と違い、今の私はシンプルに先輩の幸せを願えるようになっている。なんなら彼氏の匂わせ写真なんかが無いかとウキウキしながらフィードを漁っていた。あったらあったで「オウェーイw」くらいのノリでニッコニコになってやろうと思っていた。

 しかしそこで見つけたのは彼氏の匂わせ写真でも、先輩の元気な姿でもなく、先輩のお父さんが亡くなったという旨の投稿だった。

 多くは先輩からの伝聞で。それから一回だけ実際に会って。縁の糸としては細い細いものでしかなかったはずなのに、どうしてか非常に悲しくなった。いや。誤解を招きそうではあるが、悲しいという表現も正しくないのかもしれない。

 人間って死んでしまうんだなぁ、と私はそう思った。

 先輩の投稿に書いてあったことを簡単に要約すると「後悔は無い。人はいつか死ぬ。今を生きろ。」という言葉の数々だった。そう思えば、高校の時から先輩のラインの一言は「メメントモリ」だったような気もする。……いややっぱりこれは気のせいかもしれない。でもその言葉が先輩から何回も出ていたのは間違いない。……はず。

 とにかく、それを見て私は自分が今まで気にしていた人間関係の要素がいかに狭く浅い部分だったかを思い知ったのだ。誰を好きとか、誰には良くしてあげたいとか、誰には良く見られたいとか。

 バツの悪さを勝手に抱えて一人の人間と向き合う事を恐れるだなんて、まさに愚の骨頂としか言いようがない。

 「生きる」というのは人間関係をそうした「損得」「好き嫌い」の二元論で片付けるものでは無い。関りが無いとも思えるような細い縁の糸からでも何かを見出し拾い上げていくことが重要だ。そしてそれを大事な人に分け与えることができれば、私はようやく大馬鹿野郎から抜け出せるのかもしれない。

 そもそも新しい人間との出会いが無い今の環境ではあるが、だからこそこうして接点を持ってくださっている人を大事にしていかなければならないな、と私は強く思う。

 という訳で、彼女募集中です。

-エッセイ的な

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